親の自分史は、いちばんの親孝行

 

親との別れはいつか訪れ、避けることはできません。
親が亡くなった後、ほとんどの人が、親孝行できなかったことを悔やみます。
そして時が経つうちに、父や母が教えてくれたこと、与えてもらった愛情や知恵を、
確かな形として残していなかったことに気づきます。
思い出のなかには残りますが、自分が残さなければ記憶は消えていってしまいます。
だからこそおすすめしたいのが、親の自分史作りです。

自分史を退職や長寿のお祝いに

親の自分史を作ることは、親の人生や想いを伝え残すことができ、子どもにとっては昔話を聞きながら、知らなかった親の一面を知ることができる楽しさがあります。
そして何より喜ぶ親の顔を見ることができる。
そんな親の自分史づくりは、いちばんの親孝行になるはずです。

親孝行したいときには親はなし。
「やっておけばよかった…」と後悔しないように、早いうちに今できる精一杯の親孝行をしておきたいものです。

親たちは高齢になると子どもたちと一緒に行動する体力がなくなることもあれば、買いたいもの、欲しいものがなくなってくることも多いようです。

定年退職・引退のお祝い、銀婚式や金婚式といったご両親の結婚記念日、還暦、古希、喜寿、米寿といった長寿祝いなど人生の節目のプレゼントに、ご両親の人生の思い出や知恵を子や孫に伝える自分史なら、ともに作り上げるコミュニケーションの時間も含めて、素晴らしい贈り物になるはずです。

認知症予防と自分史

最近、高齢者施設では、認知症予防の一環として自分史作成を取り入れているところがあります。

これは、自分史の作成が、認知症になる前に低下する認知機能の「エピソード記憶」「注意分割能力」「計画力」の3つを総合的に使う必要があるからだそうです。

「エピソード記憶」とは、個人が経験したできごとに関する記憶で、経験そのものとその時の心理状態なども記憶されているものです。「注意分割能力」は、複数のことを同時に行うとき、適切に注意を配る能力。「計画力」は、新しいことをするとき、段取りを考えて実行する能力です。

自分の人生を振り返り、自分史にまとめようというときには、思い出すだけでなく、アルバムを見返したり資料を調べたり、同時に行う作業があります。また時系列に考えるなど、これらすべての機能を使うため、脳の機能が活性化するということなのです。

親がご自身で書く場合、おぼろげな記憶を親戚や古い友人に訊ねながら執筆することで、久しぶりに昔話をしたり、途切れていたコミュニケーションが復活したり、親にとっても楽しい時間が生まれることでしょう。

書くことは、気持ちを整理する「ライティングセラピー」効果も期待でき、自分史を書くうちに気持ちが落ち着き、癒やされることも多いようです。

万が一、親御さんが認知症になり、介護を受ける立場になった場合も、介護者の理解を得る上で自分史は大変役立ちます。

高齢者施設などで介護をする方々は、入居者の自分史によって過去を知ることで、より理解が深まり、認知症故の不可解な行動も理解することができる場合もあるようです。

介護をしていただく方に親の行動の意図を理解してもらえることは、親のより穏やかな暮らしにつながるのです。

親子でつくる自分史

自分史の作成は、親が自分で執筆する、親子で作る、また制作サービスへ依頼する方法があります。

親の年齢や文章を書くことの得手不得手によっても異なりますが、親が自分で執筆する場合も、年表作り、写真整理、事実確認など、子のサポートがあると、その著述はより充実したものになります。

まず、親の誕生の時代からの大まかな年表を用意して、戦争や流行など社会的なできごと、親にまつわる知りうる限りのできごとを、あらかじめメモしておき、写真をピックアップしておきます。

時系列で親の記憶をたぐれれば一番よいのですが、誰でもそううまくはいきません。一番思い出に残っていることから、ポツポツと話を引き出していきましょう。

写真を見ながら、住んでいた家の話、昔の遊びの話などの話をしながら、記憶をたぐり寄せていきましょう。昨日の夕ご飯は忘れてしまっても、昔の記憶はよく残っているものです。

また昔話をしているうちに、以前は思い出せなかった記憶が戻り、頻繁に話すようになることがあります。
このように、自分が過去に体験したことを話すことは、「回想法」として治療にも用いられるもので、長く続けることで認知機能すら改善することも明らかになっています。

話すほど親が元気になって、いつの間にか人生を振り返る自分史ができあがる。
子は、知らなかった親の歴史を知り、自分史づくりをきっかけに親とのコミュニケーションが生まれる。おまけに親の笑顔が見られるなら、こんな素晴らしいことはありませんね。

もうひとつの親の自分史、作品集

人生の足跡を綴るばかりが自分史ではありません。

親が長い期間を続けていた趣味、短歌や俳句、絵画、手芸などの作品を本に仕上げることでも、時系列に並べ、当時の思い出を書き足してみるだけで、立派な自分史になります。

かつて、着物の端切れで人形をつくる趣味をもった女性の作品集を作ったことがあります。昔の遊びではしゃぐ童人形、若い頃の自分をモデルにして作った娘人形、赤子を抱く人形、繕い物をする母の姿など、そこには人形の写真とともに彼女の人生が美しく描かれていました。

まとめ

親の自分史をつくること、また自分史作りをサポートすることは、いちばんの親孝行になるだけでなく、自分にとっても親と思い出を共有するというかけがえのない幸せな時間になります。
親御さんの退職や長寿祝いなどをきっかけに、ぜひ親の自分史作りをはじめましょう。