自分史とは何か。 知るほど自分史を書きたくなる話。

「人生100年時代」という言葉が日本でも浸透し始めた2017年以降、再び「自分史」が注目を集めるようになりました。これは、いったいなぜなのでしょう?
ここでは、自分史とは何か?について、自分史をつくる意味とともに考えていきましょう。

自分史とは何か?

 

自分史とは、自分が歩いてきた人生をさまざまな手段で表現したものです。

昔から自伝や自叙伝はありましたが、偉人や有名人のものがほとんどでした。
「自分史」という言葉を日本で初めて用いたのは、歴史家である色川大吉氏だと言われています。

1975年に刊行されたその著書『ある昭和史 – 自分史の試み』(中央公論社)の中で、色川氏は、「自分史は、偉人や有名人の自伝や伝記ではなく、庶民の歴史、個人史を記したもの」と位置づけています。

「⼈は誰しも歴史をもっている。それはささやかなものであるかもしれないが、当人にとってはかけがえのない“生きた証し”であり、無限の想い出を秘めた喜怒哀楽の足跡なのである(略)」と、自分史について語っています。

以来、自己表現として自分史を書くことが一般にも普及してきました。

なぜ、自分史が必要なのか?

自分史をつくる意義

自分史を書くことが一般に普及した今日でも、「自分の人生は、後世に伝えるほどのものではない」、「家族や友人数名に読んでもらっても意味がない」と考える人も多いようです。

では、自分史の意義はどこにあるのでしょうか?

ジャーナリスト・作家であり、「知の巨人」と呼ばれる立花 隆氏は、今後の人生を組み立てるための方法の一つとして自分史の存在をあげています。

2008年、立教大学では、50歳以上の人へ向けた「立教セカンドステージ大学」が誕生。
そのカリキュラムのひとつである「現代史の中の自分史」という講座で講師を務めた立花 隆氏は、
「セカンドステージ(これからの人生)のデザインになにより必要なのは、自分のファーストステージ(これまでの人生)をしっかりと見つめ直すことである。そのために最良の方法は、自分史を書くことだ。」と語っています。

「人生100年時代」を提唱した書籍『LIFE SHIFT-100年時代の人生戦略』(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著/池村 千秋訳 東洋経済新報社)では、「100歳まで生きることが一般化する社会では、定年後の学び直しや転職など人生の選択肢が多様化する」と予想されています。

人生100年時代、セカンドライフをいかに過ごしていくのか?
これからの⾃分にできることは何なのか?
という問いかけに応えるものとして、自分史に注目が集まっているようです。

未来のための自分史

私たちは学校で歴史を学びますが、その大きな目的は、過去を知ることで現在への理解を深め、未来へのヒントを手に入れることにあります。

人ひとりの人生も同じで、過去を見つめ直すことで現在の自分への理解が深まり、将来の道筋を描くことができるのです。

自分史をつくることは、自己の半生を振り返り、自分の人生の棚卸をすることでもあります。忘れていた過去のできごとを思い出したり、自分の本当に好きなこと、得意なことに気づいたり、新しい自分に気づかされることもあります。そこから、これからの人生に向けた新たな方向や指針を見いだすことができるのです。

終活のための自分史

余生をどのように過ごすか、どのような最期を迎えたいか。
最近では、理想的なかたちで人生を終えるためにあらかじめ準備を行う「終活」が話題になっています。

終活には、自分の荷物の片づけをはじめ、財産や相続に関わることの整理、お葬式やお墓の準備、自分の最期に備えて、家族に伝えておくべきことをエンディングノートに記すなどがあります。

エンディングノートには、介護が必要になった際に希望すること、病気になったときの延命措置を望むか望まないか、死後に臓器提供を行うか、財産・貴重品に関する情報、葬儀や墓所についての希望、資産の内容や相続に対する考え方などを記します。

これらの内容を書き記すことによって、残された家族の迷いや負担を軽減することができるのです。

エンディングだけでなく、自分史で人生のストーリーを伝えたい

しかし私たちには、エンディングだけでなく、オープニングから連綿と続く人生があります。最後を綴るエンディングノートに対し、そこに至るまでの人生も含めて残すことができるものが、自分史です。

自分史は、今までの人生を振り返ることで、残された人生をどう生きていくかを考えるよりどころとなり、生きてきた証だけでなく、貴重な体験から得た知恵を後に残す家族に伝え、未来に受け継ぐことができるものです。

また、自分史を書くことを通じて、自身を愛おしく思え、家族や周りの人々への感謝の気持ちをあらためて感じることができます。

残された家族にとっても、故人が書き残した過去の体験や知恵を、自分史を通じて知ることによって、故人を深く理解することができます。また、故人の思いを知ることによって大切な家族を失った悲しみや喪失感を軽減することもできるのではないでしょうか。

自分史をつくる8つのメリット

自分史は、実際につくってみると、たくさんのメリットがあります。自分史づくりが、自分で残す以外にも、就職活動や企業の研修、介護の現場などさまざまな場面で活用されているのは、これら多くのメリットによるものでしょう。

1 生きてきた証を残すことができる

人は誰でも、自分だけの経験をしています。そして、その経験は、自分が残さない限り消えてしまうものです。

⾃分史をつくることで、自身の経験や知識、知恵を、⼦どもや⼦孫、家族、友⼈など、いろいろな⼈に伝えることができるのです。そして、それは後世にも価値ある知恵や知見となるものかもしれません。

2 ⾃分がよくわかる、よく知ってもらえる

⾃分史づくりの過程で自分の体験を振り返ることは、自分自身を客観視していくこと、自己を分析することにほかなりません。その結果、「自分はどんな人間なのか」という自己認識をもてるようになります。

⾃分を客観的に⾒つめ直すことで、⾃分の強みやセールスポイントを⾒つけることができ、セルフブランディングや自己PRに活かすことができます。

就職活動で自分史が重要視されているのは、こんなところにも理由がありそうです。

3 ⾃分の人生を客観視することができる

歩いているときは今の足元しか見えないけれど、カメラを引くように視野を広げていくと、今いる道が過去や未来の様々な地点につながっていることが見えてきます。

自分史をつくり始めると、このように、人生を客観的に見ていくことができるのです。

例えば、挫折や理不尽で不遇なできごとでも、あらためて振り返ると、その経験にはプラスの意味があったことに気づくことがあります。

また、経験を経た今捉え直すことで、過去のできごとの解釈が変わるかもしせん。こうした発見や意味づけの変化が、未来の人生を自分らしく豊かなものにしてくれます。

4 「生きがい」を見つけるきっかけになる

大人になると、義務の中で生きることによって、「やりたいこと」や「生きがい」を見つけにくくなることがあります。

自分史を書きながら、忘れていた子どもの頃の夢や⾃分が好きだったこと、得意だったことを思い出すことで自分の個性や強みが⾒えてきます。そこに、⾃分の本当にやりたいことや⽣きがいを⾒つけるヒントがあるはずです。

5 ⾃⼰肯定感が⾼まる

「自分には、誇れる功績も能力もなく、残せるような価値がある歴史なんてない」と思う人がいるかもしれません。

しかし普段は忘れていても、人は誰でも多くのことを経験しています。その時々に、自分なりに努力をして乗り越えてきたことでしょう。

過去を振り返ることで、自分が経験した挫折や達成に向き合うことができ、「いろいろあったけど、けっこう頑張って来たな」と⾃⼰を肯定することができるようになります。

6 コミュニケーションを深められる

⾃分史はコミュニケーションの道具にも活⽤できます。

自分史を見てもらう、互いに見せ合うことで理解とコミュニケーションが深まることから、企業では社内コミュニケーションの活性化に⾃分史を活⽤しているところもあります。

また自分史をつくる過程でも、記憶を確認したり、知らないことを訪ねたり、親戚や家族、友人に話を聞く機会も多くなり、コミュニケーションを深めることができます。

7 脳を活性化できる

⾃分史をつくる際に、思い出そうとしたり、まとめようとしたりすることは、脳の活性化につながります。

脳科学者の茂木 健一郎氏によれば「脳が思い出そうとしている時に使う回路は、脳が新しいものを創造する時に使う回路と共通している」とのこと。

思い出す回路を強化することにより、創造⼒を⾼めることができるといいます。

8 つくることが楽しい

⾃分史をつくり始めると、いろいろなことが思い出される楽しさ、調べることの楽しさ、表現する楽しさ、⾃⼰発⾒する楽しさなど、さまざまな楽しさと出会うことができます。

幼いころの友人はどうしているかと探して再会したり、昔住んでいた街や、通っていた学校を訪れてみたり。

子どもの頃に住んでいた街をめぐりながら、父や母に愛されて育った記憶に浸ることも、部活の思い出に触発されて、もう一度スポーツを始めるといった楽しみが生まれることもあります。

8つのメリットについては、さらに下記のページで詳しく解説しています。

自分史をつくることで得られる8つのメリット

 

自分史を書かない理由、書けない理由

自分史を書きたいけれど書けないと言う人がいます。
書きたいけれど、自分は書かないと言う人もいます。
いったい、その理由はどこにあるのでしょう?

自分は自分史に残すような経験をしていない

自分史というと、功成り名を遂げた人が、自分の人生を記すというイメージがあるかもしれません。でも、それは一昔前のお話。今は、ブログやSNSで、日常的に自分のアウトプットをする時代です。小さな自分の記録は、そのまま自分史の1ページになるのです。
自分は平凡な人生で、人に伝えることなどないと思う方は、まず何のために、誰のために自分史を書くのかということを考えてみてください。

もし自分を振り返るために書く自分史であれば、どんな小さな経験もどんな小さな思い出もあなたの人生にとってとても大切なもののはずです。そしてあなたが経験したことはあなたが書き残さなければ、この世から消え去ってしまいます。

必ずしも本や映像として残す必要はありません。まずは自分の過去を振り返るつもりで、日記やログを残すように気軽に書き始めてみてはいかがでしょう。

子どもや家族のために残したいと思っている方は、子どもたちが知らないことから書き始めましょう。親が子どもの頃の話、両親のなれそめ、失敗や悩み。数々の経験や知恵は、子や孫の人生に必ず役に立つはずです。

あなたにとって当たり前のことでも、ほかの人にとっては興味深いという内容はたくさんあります。「人は1生に1冊は小説が書ける」とよく言われるように、誰でも1冊の小説になり得るほどの経験とストーリーをもっています。ただ多くの人々が貴重な経験を忘れてしまっているものなのです。ぜひ自分だけのストーリーを思い出してみることから始めてください 。

大切なのは今で、過去に意味はない

過去を振り返ることはネガティブで、未来を見ることはポジティブだと考える人がいます。ただ、今の自分は過去の体験や経験の蓄積のうえに成り立っています。

思い出がよいものであっても、悪いものであっても、過去のできごとに、今の自分がどのような意味を与えるかが大切です。

過去の時点にいる自分とは違って、いくつものできごとを経験し乗り越えてきた今の自分なら、過去のつらいできごとも笑えることであったり、よりよい未来のきっかけになっていたりすることもあります。

まずは簡単な年表をつくってみましょう。思い返し、文字にして初めて見えてくることが多く、終活や中年期以降に自分史が勧められる一番の意味は、ここにあります。

自分史を本にしても誰にも読んでもらえない

両親や祖父母を亡くした時、もっといろいろな話を聞いておけばよかったと後悔する方がたくさんいます。亡くなった後に、あのときはどんな想いだったのだろう、どんな事実があったのだろう、どんな友人関係を築いていたのだろうなど、今となっては聞けないことばかり。

もし、親の人生が言葉で残されていたら、少なくとも子どもや孫などあなたの家族はあなたの自分史を読みたいと思うはずです。

自分史を読んでくれる家族や親族がいない場合でも、自分の会社、自分の町、郷土の人に向けた、社史や地域史として残すこともできます。

文章を書くのが苦手

自分史を書かない、書けない理由として、文章を書くのが苦手ということをあげる人も多いです。

自分史は、決して上手に書く必要はないのですが、自分で書くことができない場合には、プロの手を借りるという方法もあります。
自分で書くより費用はかかりますが、プロのインタビュアーやライターに話を聞いて書き起こしてもらうと、忘れていたことを思い出すケースも多く、伝わりやすい文章が仕上がります。

また、文章で綴るだけが自分史ではありません。
アルバムの中から、自分の歴史を追うようにいくつかの写真をピックアップして、そこにコメントを書いてみるだけでも、立派な自分史ができあがります。

書けない、過去を思い出せないという人も、たった1枚の写真から、たくさんの過去が思い出され、書き進められることがあります。

自分のことは書きにくい

自分のことだから、ほかのことより書きやすいだろう。そう思って自分史に着手したものの、意外と書けないという人は多いものです。
その理由は、自分のことは、わかっている気になっていても、自分自身が一番わかっていないから。

自分の人生を客観視でき、自分のことをよく知ることができるのが、自分史をつくる効用のひとつです。
写真を並べるだけ、年表をつくるだけといった、自分にとって簡単にできる方法から始めてみることが、敷居を下げる一番の方法です。

一方、つらい過去と向き合いたくないと感じる人も多いようです。あまりにつらい場合は、その部分に触れずに書き始めるのも一つの方法です。

しかし、逆境には必ず果実があります。自分史を書き進めるなかで、過去に新たな意味づけができ、それゆえの実りを発見する人が多いものです。
また、自分の痛みを他に生かすことができることも自分史の魅力ではないでしょうか。

自分史の表現方法、いろいろ

自分史というと、人生の軌跡を文章にまとめて本にするというケースが多いですが、その表現方法は、人の数だけあるといっても過言ではありません。

写真を中心に人生を振り返るアルバムのかたち、絵や書が得意なら、人生折々の絵画や書とともに想い出を綴ってもよいでしょう。もちろん詩や俳句、漫画でも自分史を仕立てることができます。

さらに、本というかたちを超え、映像や音声で残すこともできます。従来のイメージにとらわれず、自分史を楽しみましょう。

文字で綴る自分史

これまでの人生を時系列で綴った半生記から、私小説、エッセイ、日記、年表、手紙、句集や詩歌集などさまざまな表現形式があります。

最も多いのが一冊の本に仕上げる方法。200~300ページもあるハードカバーの書籍から、16ページ程度の雑誌・小冊子風のつくりまで、さまざまな本として仕上げることができます。

印刷・製本サービスを利用して1冊の本に仕上げる方法が一般的ですが、データを出力して手づくり本を仕上げたり、電子書籍として世に出したり、本のかたちにはせず、デジタルデータのまま残す方法もあります。

文字で綴る自分史のよい点は、取りかかりやすいこと。自分で書けば低価格で取り組めること。原稿は自作で、印刷・製本はサービス業者に依頼するという方法もあります。
一方、ある程度の⽂章⼒が必要とされることは難点かもしれません。

ビジュアル中心の自分史

ビジュアルが中心の自分史は、写真を中心に文章を織り込み、アルバム形式で仕立てるもの、絵画作品で綴る自分史、絵やイラストを中心とした絵本形式などがあります。
絵画作品には、その時々のエピソードを添えていくことで、作品で自分を表現でき、作品集を超えた自分史とすることができます。
子どもが描いた絵を時系列に並べてみると、子どもの成長記や子ども目線で描く家族史ができあがります。見た目も華やかになり、見て楽しい自分史となるでしょう。
市販のフォトブックサービスを利用すれば、レイアウトや文章量に一定の決まりがありますが、比較的低価格でフォトブックをつくることができます。

ビジュアルが中心の自分史のメリットは、文章が多少苦手でも、読者にリアリティのある情景を伝えることができることです。

デメリットとしては、写真や絵画作品などの整理に時間がかかること。絵やイラストは作成の手間がかかること。手づくりのアルバムならプリントを貼りこんでつくることができますが、本として印刷するときには、写真や絵を画像データにする必要があり、スキャニングの手間も考慮しておかなくてはなりません。

漫画で綴る自分史

最近では、漫画で⾃分史をつくるケースも増えています。

手元に写真が残っていなくても、伝えたいストーリーやイメージを具現することができる点が大きなメリットです。
また、⼼境や状況を伝えやすく、活字離れが進んでいる世代にも気楽に読んでもらえる自分史になるでしょう。

シナリオや構成、漫画を業者へ依頼する必要があり、費⽤と時間がかかることが多いようです。

音声で綴る自分史

音声のみで自分史をつくることもできます。
シナリオをつくって自分、あるいはナレーターなどが読んだ音声データを残しておく。また、インタビューしてもらった音声をそのまま自分史として残すという方法です。

ご自分の声で綴った自分史なら、後から聞く人にとっては、懐かしい声がたくさんの想い出をよみがえらせてくれる貴重な贈り物となることでしょう。
また比較的手間や費用をかけずにつくれることもメリットのひとつです。

デメリットとしては、見える形として残らないのでイメージが伝わりにくく、充足感が乏しいことなどがあげられます。

動画で綴る自分史

まるで映画のように、動画で自分史をつくることもできます。
大きく分けると、写真やビデオなどを編集してナレーションを入れたもの、インタビューを受けながら、その様子をビデオ撮影するもの、俳優を起用して再現ドラマとして動画をつくる方法があります。

動画は本とは異なり、表情やしぐさ、話し方、声まで映像データとして残しておけるというのが、最大のメリットです。

また、動きのある映像と音楽やナレーションなどにより、視覚と聴覚に訴えることができ、強いメッセージ性が生まれます。

小さい子から大人まで誰もが理解しやすく、直感的に内容を伝えられるのも大きなメリットです。

結婚式、金婚式、長寿祝いの席、お別れの会などで放映したい場合などにはぴったりの方法です。自分でシナリオを考える、映像監督をするといった楽しみもありそうですね。

一方デメリットとしては、高品質の動画を制作するには、さまざまな機材や、俳優やナレーターの手配など、映像制作のプロフェッショナルに依頼する必要があり、費用がかさむことになります。

自分史の書き方3タイプ

文章で自分史を綴る場合、代表的な3つのタイプがあります。

もっともオーソドックスな書き方が「時系列型自分史」。次に、時系列にとらわれず、テーマを絞って書く「テーマ型自分史」、さらに、自身の体験や経験をもとに、自分の感じたことを自由に書き綴る「エッセイ型自分史」です。

人生の流れを俯瞰してテーマを見いだしたい場合は、年表から作り始める「時系列型の自分史」を、自分の伝えたいテーマがはっきりしている場合は「テーマ型自分史」を、書きたいテーマがたくさんあるという場合は、エッセイを並べて人生を表す「エッセイ型自分史」がおすすめです。

時系列型自分史

生まれたときから現在まで、時系列に身に起きたできごとを綴るもので、「半生記」とも呼ばれています。
自分の身に起きたできごとの年表をつくり、さらに世の中のできごとも年表に付け加えておきます。
年表ができたら、どこに焦点を当てるのかを考えて文章をふくらませていきましょう。自分のできごと、そのときに感じたこと、考えたこと、周りの人々のできごと、社会のできごとも付け加えていくと、社会との関わりや当時の生活の様子が垣間見えるいきいきとした自分史となっていきます。

できあがった年表を見直してみると、時代ごとにテーマが浮かび上がってくるかもしれません。
あるいは全体を通して1つの流れが見えてくるかもしれません。
人生のクライマックスやターニングポイントが見えてくるかもしれません。

年表という流れに浮かび上がってきたテーマやエポックメイキングなできごとを中心に文章を書き進めていくと、自然に時系列型自分史ができあがります。

テーマ型自分史

時系列ではなく、あるテーマに絞って書き進める自分史もあります。

この場合、大きく、「時代」「モノ・コト」「人」という3つの軸を考えてみましょう。
例えば、子ども時代、学生時代、社会人時代といった時代、
趣味の旅行、コレクション、写真、音楽活動などモノやコト、
家族や友人など影響を受けた人との関係にテーマを絞るなどが考えられます。

生い立ちから現在までを書くことは少なく、ひとつの大きなテーマでストーリーが描かれていきます。

エッセイ型自分史

エッセイとは、日本では、体験や経験に基づき、ここから生じた自分の心の動きを自由に書いたものをいいます。
つまり、エッセイは「⼈⽣のある瞬間を切り取った⾃分史」ともいえるでしょう。

自分史を書くにあたって、テーマがたくさんあって散在している場合、何から書き始めてよいかわからないといった場合に、おすすめしたい方法です。

文章の流れを考えて長文を書くのではなく、短い文章を書いてからまとめ上げる⽅法なので、比較的書き始めやすいのではないでしょうか。

まず思いつくままに何本かエッセイを書き上げてみましょう。自分史として仕立て上げるためには、各エッセイを関連のあるテーマのグループに分けたり、人生が浮かび上がるような順番に並び替えたりすると、人生のエッセンスで織り上げた自分史ができあがります。

自分史の種類、自分だけでない自分史

ひと言で自分史といっても、自分の人生を記録するものだけではありません。
表現の対象によって、親の自分史、家族史、一族の歴史、育児日記、遺稿集、会社の社史、地域史などがあります。

■親の自分史

多くの人にとって、自分の人生以上に書き残しておきたいのが親の人生かもしれません。できあがったときより、昔の話を聞くなど作成中のコミュニケーションに価値があるのも親の自分史の特徴です。

親にとっては、自分が生きてきた証や想いを子孫に伝え残すことができ、子どもにとっては、知らなかった親の一面を知ることができる楽しさがあります。

「親孝行、したいときには親はなし」ということわざどおり、親が生きているうちにつくれなかったことを悔やむ声をよく聞きます。
できれば存命中に、定年退職、金婚式、還暦、古希、米寿といった長寿祝いなど人生の節目に、感謝を伝えるギフトとして贈ってみてはいかがでしょう。

亡き親の自分史を作る場合は、知りうる限りの親の情報、覚えている親とのエピソードを書き留めるほか、兄弟で話し合ったり、親せきや縁のあった方々に親についてのインタビューをしてみたりしましょう。複数の視点を合わせることで、故人の人物像が立体的に浮かび上がってくるはずです。

さらに詳しくは、こちらのページで解説しています。

親の自分史は、いちばんの親孝行

■家族史

自分の両親や夫や妻、⼦供、孫など、家族の系譜や歴史、エピソードを、家族の視点で綴ったものが家族史です。

家族史では、祖父母、曾祖父母の代からの家系図を整理してみましょう。親や⾃分を起点に先祖を見直し、どのように⼦供や孫に繋がっていくのかを追うことで、⾃分史にはない家族の広がり、出会いの不思議を発⾒することができます。

■遺稿集

遺稿集とは、故人が残した日記や手紙、俳句や短歌などの作品をまとめて一冊の本に仕上げたものです。ひと昔前は著名人のものでしたが、自費出版サービスが身近になった近年では、一般の人のあいだでもつくる人が増えています。
文字原稿だけではなく、書や絵画といった故人の作品や写真を取り入れて人生の足跡を残したいものです。

■社史

社史とは、会社が、⾃社の創業から続く歴史の記録、いわば会社の自分史です。
主に周年事業の一環としてつくられることが多く、関係会社の人、株主や社員などが対象となります。

■地域史

変わったところでは、地域をテーマにした自分史というものがあります。自分の人生を振り返りつつ、自分が生まれ育った地域や、テレビ番組の「アナザースカイ」のように自身のターニングポイントとなった地域について、地域の歴史や変化を綴ってみるものです。
懐かしい場所を訪ね歩いたり、その土地に長く住んでいる人に情報収集をしたり。
自分史という形で地域の歴史を残すことができるのです。

■育児⽇記

子どもが誕⽣してから、世話の記録や子どもの変化など成長を記す育児日記は、1歳から3歳までにやめてしまう人が多いようです。この育児日記の形を変えて、写真とともに子どもの成長の記録を書き残しておくと、かけがえのない歴史が言葉で刻まれていきます。
子育てに悩んだこと、親や子どもにとっての「初めて」のできごとなど。
子どもの成⻑を実感することができ、子どもにとっては愛された記憶のギフトとなるはずです。

自分史を書く前に決めておく5つの「?」

「自分史」を書く理由は人それぞれ。表現のかたちも、文章のスタイルも人それぞれです。自由度が高いものだけに、取り組み方に迷うことが多いようです。
自分史を完成させるために、書く前に決めておきたいことをまとめました。

■なぜ自分史をつくるのか?

なぜ、自分史をつくろうと思ったのか?
まず、目的をはっきりさせておきましょう。

生きた証を残したいから? 知識や経験を後世に役立てたいから?
自分をよく知りたいから? 過去を検証し、今後の人生に役立てたいから?

自分史を完成させるには、手間も時間もかかります。途中で面倒になってしまうこともあるかもしれません。
目的をはっきりしておくと、実際に作成する際にも軸がぶれず、完成するまでのモチベーションを保ちやすくなります。

まだはっきりした理由が見えなければ、年表だけつくってみる、写真整理をしてみるなど、過去を振り返る行動を始めてみましょう。その過程で目的がはっきりしてくることも多いようです。

■誰に読んでもらう? 見てもらう?

できあがった自分史は、誰に読んでほしいですか?
子どもや孫、親戚、友人、仕事関係者、あるいは不特定多数の人でしょうか。
主な読み手によってその内容や文体は変わってきます。

たとえば生き方の指南を子どもに伝えたいなら手紙風に、社会人人生で得た知恵を後進に伝えたいならビジネス書のようにまとめてみるのもいいでしょう。

読んでもらいたい読者を決めたら、その人に届けるつもりで自分史を書くと、質の高い作品になります。

不特定多数の人に読んでもらいたい場合は、部数、流通方法なども検討していかなくてはなりません。

■どんなかたちの自分史をつくる?

自分史は、文章を中心とした本のかたちを選ぶ方が多いですが、最近では写真集や動画などさまざまなスタイルがあります。

本であっても、重厚な印象の書籍からやや薄手の書籍、雑誌風のつくりなど、仕上がりはさまざまです。

「誰に読んでほしいのか」を念頭において、決めるのがおすすめです。

■自分でつくる? 依頼する?

自分史は必ずしも自分で作成するべきである、ということはありません。文章で本をつくりたいが、文章が苦手だという人は、専門のインタビュアー、ライターなどに依頼することもできます。

動画でつくりたい、漫画でつくりたいという場合も、それぞれの専門家に依頼することができます。

自分ではできないことを依頼する場合でも、書き手に資料を提供したり、インタビューに応じる必要があります。
また外部に依頼する際のコストなども考えておく必要があります。

■いつまでにつくる?

きちんとした自分史を完成させるためには、かなりの時間がかかり、集中力も必要とされます。
いつから始め、いつまでに完成させるのか。現実的なスケジュールを決めておきましょう。無計画なままにスタートすると、ずるずると先に延ばし、結局完成できなかったということも多いものです。

なぜその期間で完成させたいのか。そこに理由があれば、それがモチベーションになります。

自分史を書くステップ

⾃分史の書き方には、決まったルールはありません。
決まりがないとかえって始めにくいので、ここでは、自分史を本にしたい方のもっとも基本的なステップをご紹介します。

STEP1 自分史のイメージを固める

本ということは決めていても、本の大きさやページ数までは、すぐに決められないかもしれません。

ただ、スタート前に、文章主体か写真主体か、200ページ以上のぶ厚い書籍か70ページ程度の気軽に読める書籍かなど、だいたいのイメージは固めておく必要があります。
他の人の自分史を読んで見るのも、イメージを固めていくために役立ちます。

STEP2 年表をつくる

時系列型の自分史にせよ、テーマ型の自分史にせよ、どんな形であっても年表をつくって人生を整理してみることが大切です。
誕⽣から入学・卒業、⼊社・退社、出会い、別れ、結婚など、⼈⽣の重要な⽇をまとめた年表を作っていきましょう。

⼈⽣のできごとを社会の歴史と重ね合わせておくと、時代考察がしやすく、読み手の共感も得やすいものができあがります。話題となった国内外のできごとや世相・流行なども記しておきましょう。

年表をつくることによって、どのできごとを素材として取り上げるか、どんなテーマを深く掘り下げるか、クライマックスはどこかなどが見えてきます。

STEP3 資料を集めて整理する

年表をもとに、あるいは年表づくりと平行して、できるだけ多くの資料を集めましょう。自分の記憶だけでは厚みのでない描写も、資料が集まるほど充実していきます。

⽇記や手帳、写真、⼿紙、年賀状、卒業アルバム、卒業証書、通信簿、表彰状、資格証明書、パスポート、免許証、家計簿、⺟⼦⼿帳、記念品、愛読書、玩具などなど。
昔住んでいた場所の地図、家の間取り図、家系の過去を調べるには、家系図や過去帳などもあると便利です。
資料を⾒ているだけでもたくさんの記憶が呼び覚まされます。

STEP4 構成を考え、目次をつくる

年表をできるだけ細かく書き上げることができたら、本の構成を始めましょう。本の構成は、そのまま目次のもとになります。

短い文章なら書きながら構成を考えることもできますが、たとえば200ページ10万字以上といった文章量となると、先に構成がないと後で整理がつかなくなってしまいます。
構成=目次づくりをすることで、膨大な量の文章が小さな塊に細分化され、頭の中も整理されていきます。

まずはざっくりと、年表を大まかな時代に分けてみます。
たとえば、誕生から子ども時代、学生時代、社会人時代、晩年期など。さらに独身時代、会社勤め時代、独立時代などに分けてみてもよいでしょう。

ここで、その時代を象徴する見出し(ひと目見て内容が分かるようにした短い言葉)をつけておきます。

次に、書きたいエピソードをピックアップ。
それぞれの時代の中で、とくに記したいことをピックアップし、さらに細かな小見出しをつけておきます。

STEP5 文章を書く

集まった資料をもとに、構成に沿って⾃分史を書いていきます。
どの時代、どのエピソードから書き始めても、構成をつくってあるので迷子になることはありません。とにかく書きたいところから始めると、楽しく進めることができるはずです。

はじめは⽂章にせずに、メモ書き程度でも大丈夫。覚えていることを書き出していき、後から文章にまとめましょう。

自分史づくりがよくわかる本

いざ自分史を書こうと思っても、いったい何から手をつけたらいいかわからない。
どんな自分史にしたいかもわからない。
そんなときに手に取ってほしい本をご紹介します。

■「自分史の書き方」 立花 隆・著 講談社

■時代とともに振り返る「自分史ノート」 幻冬舎

■いますぐ書きたくなる 「齋藤式 自分史の書き方」 齋藤 孝・著 どりむ社

■「書かない自分史」 倉林 奈々子/野見山 肇・著 ぴあMOOK

■「自分史2.0」 菖蒲 亨・著 幻冬舎

■「失敗しない自分史づくり 98のコツ」  前田 義寛 野見山 肇 前田 浩・著 創英社/三省堂書店

さらに詳しくは、こちらで解説しています。

自分史の作り方・書き方がよくわかる本 おすすめ6選